【本書の読み方】 脚注参照
■10 厳しい取締役会 2 通算105回 靖国神社の秘密の場所
印刷会社であるラッキーの社長である幸と竹根は靖国神社境内を散策しながら、二人が再会した1980年代のことを思い出している。
ラッキー取締役を対象とした取締役研修、社長の幸の「経営理念」の構築、顧問契約と波乱はあったものの進展してきた。
幸と竹根の二人は、再び靖国神社の境内散策の現代シーンに戻った。
【現代】
「先生、靖国神社って、どのように書きます?」
「どのようにって?普通に靖子とかという女性の名前と同じ字ではないのですか?篇が立つで、旁が青でしょ?違うのですか?」
「一般的にはそのように書きますよね。でも、正式には違うのです。旁の青の下が仁丹の丹の横棒が左右にでない字です。もちろん、「くに」というほうも古い漢字が使われています。すなわち、『靖國神社』と書くのです」
幸が手帳の一ページに大きく書いて示した。
「本当ですか?」
「博学な先生でも、知らないことがあるのですね」
「さすが、文学部ですね」
幸は、竹根と再会した時に、竹根が経営コンサルタントであることを知った。彼の人柄や能力を知ってはいたが、そのとき、顧問になってもらうべきかどうか、会長が認めてくれるのか、取締役会が顧問就任をすんなりと受け入れるだろうか、取締役会でもめたら収集できるだろうか、いろいろなことを悩んだ。とりわけ、金山工場長は、筆頭常務である、ナンバー・ツーの立場であり、うるさ型でもある。その金山がどう出てくるのか、これが一番の心配だった。
今は、竹根のおかげでこうして社長を続けていられるが、そのときはなんと心許ない経営者だったのだろうということも思い出された。竹根が顧問になってくれたとして、何をやってくれるのだろう、そもそも経営コンサルタントとは何かということすら社長である自分自身が知らなかったのだ。どのように使ったらよいのかもわかっていなかったし、どのようなメリットがあるのかもわかってなく、漠然と何かよい結果を生んでくれる人だろうということくらいの期待感だけで、不安材料ばかりが次々と湧き起こってきた。
二人は、またもとの小道を戻りながら、会話に戻った。
幸は、また育猛のことを考えていた。
「育さんは、昼休みは普段どうしていますか?」
「私ですか。いろいろですけど、できるだけ気分転換をするようにしています」
「文学部出身ですから、本を読んだりもしますか?」
「本を読むことはあまりしませんけど・・・」
「なぜですか?」
「だって、社員が突然社長室を覗いたときに、だらしない顔をしてポルノ小説を読んでいたなんていうのでは様になりませんからね」
「ポルノ小説を読んでいても、社員が尊敬する方法があるのですよ」
< 次回に続く お楽しみに >
■■ 脚注
本書は、現代情景と階層部分を並行して話が展開する新しい試みをしています。読みづらい部分もあろうかと思いますので、現代情景部分については【現代】と、また過去の回想シーンについては【回想】と表記します。回想シーンも、回想1は1970年代前半にはじめて幸が竹根に会ったときと、回想2は、その十数年後、二度目にあったときの二つの時間帯があります。