【本書の読み方】 脚注参照
■11 新しい企業作り 8 通算123回 マーケティング的発想
顧問を依頼した竹根との相談の上で策定した五カ年計画案の第一議案であるノンファブリック戦略が可決され、第二議案である活版とオフセット印刷の両建て戦略の審議に入った。
営業部長の刷増(すります)は、オフセット時代への突入が始まらんとしている今こそビジネスチャンスであると、大松田に賛意を示した。しかし、アメリカと日本の市場の違いからオフセットビジネスとしてのプリントショップ展開はリスクが潜んでいる。
欧米では、タイプライターの普及があるのでプリントショップというビジネスモデルが成り立っている。しかるに、日本では和文タイプライターは限られた均か操作ができない。
【回想2 1980年代】
「部長の前提は、アメリカのようにタイプやこれから普及されるであろう汎用ワープロやパソコンソフトがあることが前提だよね。その前提を取り払ってごらんよ。それをゼロベース思考と言うんだ。これは竹根先生の受け売りだけどね」
そういいながら幸は、竹根の方を見た。竹根は笑顔を返すだけである。
「版下をうちで作ってやればいいじゃないか。会社には、立派な活字印刷をしなくてもいい印刷物がたくさんあるはずだ。例えば社内通達などは、上質紙で充分なのに今はコート紙を使ったりしている。コスト意識をお客が持つようになれば、当然その辺のことを考えてくる。これから需要を掘り起こすのが、部長、あんたの役割ではないか」
――需要の掘り起こしか。まさにマーケティングができる営業部長にピッタリの仕事だ――
「社長、よくわかりました」
「今話したように、待ちの営業から攻めの営業に体質を強化しないとうまくいかないだろうね。それに、見込み客にこの仕事が見えるようにしないとうまくいかないだろう。それには、多店舗展開をして、お店に印刷機を置き、それが外から見えるようにするんだ。仕事場が、即ショールームになり、顧客に新しい業態をアッピールしていくことになる。その結果、プリントショップという便利な施設の存在を知り、利用法をお客が発掘してくれ、ますます需要が広がるというものだ」
「竹根先生、福田商事のその辺のユーザー対応はいかがでしょうか」
< 次回に続く お楽しみに >
■■ 脚注
本書は、現代情景と階層部分を並行して話が展開する新しい試みをしています。読みづらい部分もあろうかと思いますので、現代情景部分については【現代】と、また過去の回想シーンについては【回想】と表記します。回想シーンも、回想1は1970年代前半にはじめて幸が竹根に会ったときと、回想2は、その十数年後、二度目にあったときの二つの時間帯があります。