■■技術変化の先を読んだ結論【連載小説】経営コンサルタント竹根好助の「先見思考経営」 No.124
【本書の読み方】 脚注参照
■11 新しい企業作り 9 通算124回 技術変化の先を読んだ結論
顧問を依頼した竹根との相談の上で策定した五カ年計画案の第一議案であるノンファブリック戦略が可決され、第二議案である活版とオフセット印刷の両建て戦略の審議に入った。
営業部長の刷増(すります)は、オフセット時代への突入が始まらんとしている今こそビジネスチャンスであると、大松田に賛意を示した。難問は山積しているが、時代の変化、技術動向を先読みした対応を図る方向に次第と取締役会の雰囲気が変化して来た。
【回想2 1980年代】
「竹根先生、福田商事のその辺のユーザー対応はいかがでしょうか」
「私も福田商事をやめて何年にもなるので、その辺のことは正確な情報としては持っていません。一方で、これから新規事業として本腰を入れて展開するつもりのようです。先日、印刷事業部長にある席であった時に、どこか信頼できるところとタイアップをして、モデルユーザーをいくつか育てることを提案したんです。結構乗り気でしたよ。そのときには、ラッキーをタイアップ先として念頭において話をしたところです。ただし、ラッキーではまだ方針が決まっていないので先方にはこちらの話は一切していません」
「今、竹根先生からご説明があったように、福田商事はまだ未知数だが、逆に先方も必死でこの市場に食い込もうとするだろう。それだけに、こちらの要望に耳を傾けてくれる可能性は高いのではないだろうか。金山工場長の言うように、リスクが高いことは否定できず、福田商事の戦略に乗ることと、そのリスクとを天秤にかけて決めなければならない」
第二議案についての意見交換も侃侃諤諤であった。金山は依然として慎重な意見であり、あいかわらず茂手木は金山べったりで主体性が見られない。賛成派との調整案が出された。
「では、そろそろ採決に入りたいと思います。『プリントシップ・ビジネスについては、まず福田商事の姿勢を竹根先生に探ってもらい、探るというと表現は不適切ですが、福田商事の意向次第では福田商事と手を組み、先方が弊社のような零細で、オフセットに実績のないところとは手を組めないというのであれば他社のオフセット機を入れることも含めて検討する』ということに賛成の方は挙手をお願いします」
大松田と刷増が手を挙げた。金山と茂手木は調整案についても賛成しなかった。
「二対二ですので、議長の私の一票で決めさせてもらいます。私は、この案に賛成です。ただし、福田商事次第では、福田商事と連係してやることについてはビジネスライクに判断するつもりです。工場長、茂手木取締役、よろしいですか」
「社長がそこまで言ってくれるのであれば結構です」
第二議案までが採決され、他に緊急動議があるかどうかが議長から問われたが、特別に追加議案もなく、本件とは関係のないことでの情報交換をしてから解散となった。
< 次回に続く お楽しみに >
■■ 脚注
本書は、現代情景と階層部分を並行して話が展開する新しい試みをしています。読みづらい部分もあろうかと思いますので、現代情景部分については【現代】と、また過去の回想シーンについては【回想】と表記します。回想シーンも、回想1は1970年代前半にはじめて幸が竹根に会ったときと、回想2は、その十数年後、二度目にあったときの二つの時間帯があります。