■■【経営コンサルタントの本棚】 親父の小言
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昨今では、「親父」の存在感が低下し、磯野家のお義父さんのような雷親父がいなくなりました。
そのような中で、「江戸時代にあった"親父の小言"」というタイトルのNHKの番組を見た方も多いでしょう。法政大学講師の小泉吉永氏の話を興味深く視聴しました。
「和本、江戸期教訓書、”親父の小ごと”」という、江戸末期嘉永5年(西暦1852年)の嘉永板がオークションに出されました。
「親父の小言」といいますと、「火は粗末にするな」「朝、機嫌をよくしろ」で始まるお馴染みの格言集を思い浮かべることが多いと思います。
この本は、昭和3年(1928)に書かれました。中味は45カ条で、福島県浪江町の大聖寺(2014年現在福島市内に避難中)のご先祖であります暁仙和尚が書いたものです。
それに対して、このほど紹介された江戸のものは、本文が全81カ条あり、末尾に教訓の和歌2首が添えられています。最後に「嘉永5年」の年号と「施主、神田住」、つまり、江戸神田の住人が施しの為に出版したことを示す記載があります。
本文冒頭は「火は粗末にするな」という聞き慣れた文句で始まります。小泉氏は、その類似点と違いについて話しています。
現代と江戸の「小言」の違いは、箇条数です。「子供の頭を打つな」「女房にだまされるな」「喧嘩をするな」など昭和版には欠落した箇条が数多くあります。81カ条には45カ条の内容が全て含まれています。
嘉永板の「恩はどうかして返せ」が、昭和版では「恩は遠くから隠せ」となっているように、文言や箇条配列の違いも散見されるようです。「かへせ」と「かくせ」は旧仮名遣いのくずし字では字形が似てくるため、転写や伝承の過程で変化した可能性もあります。
いずれにしろ、両者の構成比は大差ないようです。
氏の分類では、①の対人関係の心得が最も多く全体の2割を占めます。その三分の一は、老人、病人、困窮者、身寄りのない人など弱者に対するものです。この点は「小言」の大きな特徴です。
②の家業・家政の心得が多いのは当時の教訓書の通例です。
③の危機管理も家業・家政と関連しますが、特に、火事や天災に対する心構えは「小言」の強調点の一つです。
これらに対して、当時の教訓書では比較的比重が高い、⑥の修己・修身や、⑦の家族・家庭の心得が極端に少ない点が目立ちます。
これからわかりますように、「親父の小言」は、対人関係の箇条が際立っています。そこには、世間の人を「人様」と呼ぶ精神が息づいているように思います。
氏は、「小言」を読む時に、評論家の草柳大蔵さんの逸話を思い出すそうです。
石屋に生まれ育った草柳氏が、中学三年のある夏の日、これから銭湯へ行こうといいますのに、わざわざ父親が井戸端で行水をして、体を奇麗に拭いていたそうです。それを見た大蔵少年は、「銭湯へ行くのに、どうして体を拭くの。それは不合理じゃないの」と問うたそうです。
草柳氏の父親は「銭湯で着物を脱いで汗臭かったら、人様の迷惑だろうが!」と叱ったそうです。
私たち、現代人の多くの人が、中学三年の草柳氏と同じ発想になるのではないのでしょうか。
近年は、「人様」より「俺様」の時代になってしまっているのですね。
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